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学生に戻った気分でゼミにでる [スタンフォード日記]

スタンフォードは3学期制(夏を入れると4学期)のため、4月1日という極めて日本的スケジュールで到着した僕は、幸運にも春学期の第1週に間に合うことになりました。

そして、学部3・4年生と修士課程の学生のための歴史学部のゼミに許可をもらって参加することができました。

気分は「15年ぶりのアメリカ大学生生活」です。毎週200ページのリーディングと3時間のディスカッションを強制的にやらされるのは、なんというか、少なくとも快感ではないことはよくわかりました。(自分のゼミ生の気分が少し分かりました。[たらーっ(汗)])しかし、とても勉強になっていることは確かです。

【ゼミ室の廊下から】
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具体的には、米中関係史を対象とするこのゼミは、冷戦期の米中ソ関係で華々しくデビューした後にアジア系移民史研究に取り組んできた、ゴードン・チャン教授(東アジア研究所長)の指導を受けるものです。

独立間もないころから現代まで米中関係を概観するため、リーディングは多岐にわたります。(以下の6冊すべてのページを使います。それに別途資料がありますので、7,8冊の分量を10週間で使います。)

それぞれの時代の代表的なアメリカ人の対中認識を示す文献をつかむためには、Benson Lee Grayson, ed. The American Image of Chinaと補足史料を使います。

19世紀を中心に、中国に渡ったアメリカ人貿易商や宣教師、外交官の活躍は、個人ベースで辿っているこの新しい文献で読みます。(毎年教材を入れ替えているそうで、この文献も試行的に使っているようです。)
John R. Haddad, America’s First Adventure in China (2013)

中国人のアメリカ認識については、20世紀を中心に扱っている、この文献です。
Jing Li, China’s America (2011)

ヘンリー・ルースや宋美齢などについては、
T. Christopher Jespersen, American Images of China, 1931-1949 (1996)

冷戦期の米中関係については、Qing Simeiに一次史料と多少の二次文献を追加。
Simei Qing, From Allies to Enemies (2007)

そして現代に至る米中関係の論点については以下。
Nina Hachigian, ed. Debating China (2014)

主要な論点を、3時間のゼミに10週間参加することでほぼ網羅することができるように、十分に配慮されています。さすがにアメリカのシラバスはよく考えられているなぁ、と思います。

毎回学生は前日までに1枚程度のコメントを授業用のWebに掲載することが義務づけられており、加えてタームペーパーとして15枚(日本語だと10000-12000字程度)を提出して単位が認められます。

このような講義をスタンフォードの学生はいくつも同時に取っているわけですから、要領よくこなしていかないといけません。

毎回のゼミは、学生が疑問に思ったことや感じたことを表明することからはじまり、教授のリードで時期を進みながら、または視点や当事者を変えながら議論を進めます。各回を貫く問いも存在していて、たとえば、(19世紀半ばから後半の)「アメリカの対中関係に『帝国主義的imperialistic』な要素はみられるか」、「ある研究者によれば20世紀頭までの米中には『特別な関係special relationship』が存在したというが、同意するか」など。

これらの問いには学生は事前にコメントを提出しているのですが、この問いを吟味するまでにきちんと事実関係を整理し(たとえばアメリカの対中貿易の実体やBurlingame-Seward Treaty、門戸開放、スティムソン・ドクトリンなど)、大量の文献のどこに何が書いてあったかゼミのなかで確認しているので、問いを議論するところまでくると全員が理路整然とそれぞれの解釈を展開することができます。

ゼミの進め方や教材選定などで教師として大いに勉強になっています。それ以上に、米中関係史についてしっかりと学び直せていることは大きな財産です。なにより、とても温和で、ユーモアのある先生なので、導かれるように僕も一学生にすっかり戻った気がします。

最後にこのクラスを履修している学生について。12,3名は学部生と院生が半々です。アジア系は40%くらいで、その多数も中高からこちらで勉強している学生がほとんど。留学で中国に行くことを計画している学生も多く、意欲的に参加しています。毎回のWebフォーラムの学生のコメントは、本当にレベルが高く、時に感動すら覚えます。(英語の作文能力を含め学生間でもちろん差が出ていますが、下にたまっているのではなく、とにかく上に突き抜けている、といった感じです。)

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ちなみに、スタンフォード中国センター(北京大学内)ではミシェル・オバマ大統領夫人が先月演説をしています。その解釈について連載で書きました。しばらくすると図書館などで読めると思います。少しこれまでと異なった文体で書いています。

「ミシェル・オバマは中国で何を語ったのか」『東亜』(2014年5月号)

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