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マイケル・オクセンバーグ記念レクチャー [スタンフォード日記]

M. Oksenberg先生はアメリカの中国研究の泰斗、ミシガン大学で多くの著作とお弟子さんを残されただけでなく、カーター政権ではホワイトハウスに勤務し米中国交正常化に尽力されたことでも知られています。2001年に63の若さでなくなるまで、最後の10年近くをスタンフォードの当研究所で過ごされました。

今日のイベントはシンポジウムの形式をとり、ワシントンよりBrookings研究所のK. Lieberthal先生(元ミシガン大教授、クリントン政権のホワイトハウスでアジア上級部長)を基調講演に向かえ、当研究所よりK. Eikenberry将軍(元アフガン大使、退役陸軍中将)、T. Finger先生(元国家情報会議議長)、中国よりCui Liru前理事長(CICIR)が討論に入りました。詳しい略歴は以下で。
http://aparc.stanford.edu/events/uschina_relations_and_the_rebalance_to_asia/

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Lieberthal氏は講演で、米中を"most consequential relationship"(結果が最も重要になってくる関係)と定義、経済、気候変動(←複数回指摘)、グローバルな安全保障問題、北朝鮮問題などで協調が必要と力説、G20や米中首脳会談なども事例として挙げます。しかし、中国の軍事力増強、アメリカのアジア政策への疑問、米中の外交上のミスコミュニケーションが重なり、「変曲点(inflection point)」が生まれ、とりわけこの半年の米中関係が明らかな「悪化傾向(downward-spiral)」にあるとワシントンで誰しもが認識していると指摘。そのうえで、米中両国がともに制約される提言をしたいと述べ、最高指導者が決意と保証を時間をかけて行うこと、戦略、核を含めた軍事対話を推進すること、地政学的な争いで協力を阻害させてはならないことを詳細に論じました。

リバソール氏はその後の質疑応答でも、アメリカ側が西太平洋で軍事・外交的に行動の自由を何も譲らないという前提が間違っているとし、相互に抑制されることの重要性を指摘しました。ここまででおわかりのように、米中関係の「管理」を相当に重視する立場で、米中の2カ国での議論が中心です。この地域の多国間制度の役割や、米中関係による同盟国の不安にはそこまで重点を置かない内容であったかと思います。

スタインバーグ前国務副長官の近著『戦略的再保証』や、オバマ政権の初代ホワイトハウス・アジア上級部長のジェフリー・ベーダー氏の主張にも通じるところが大きい内容です。

なお、議論の中でシャングリラ・ダイアローグについても登壇者たちが触れましたが、お一人からわが国総理の演説に対して辛口の評価があったことが印象的でした。「非常に複雑な演説だった」と趣旨について、また価値観を強調しているが「中国を含めた」平和と繁栄のための手立てがみえない、「安定」こそ将来的に重要になってくると。ただ、中国副参謀総長の批判は大きな「敵失」になったとも忘れずに指摘されていましたが。

レクチャーの雰囲気は以下記事でもまとめられています。棘をほとんど抜いてあるので、会場でのそれぞれの発言、雰囲気を反映しているとは言い難いものですが、それは大人の事情というものでしょう。
http://aparc.stanford.edu/news/uschina_relations_headed_for_scratchy_time_says_oksenberg_lecturer_20140609/

シャングリラについては、日本の報道が同じトーンばかりなのが気になります。また、あまりに中身のないオーストラリア防衛相の演説をオーストラリア人専門家と一緒にこきおろしたり、逆に、アジアの安全保障が直面している問題をクリアに論じたシンガポール防衛相の演説を取り上げたりという勉強をみせてほしいものです。テープ起こしも全部読みましたが、結構面白い議論があちらこちらにあるのに、報道はなにも伝えていません。記事の見出しのためだけなら、スピーチ原稿なぞすぐ手に入るので、現地で取材する意味は皆無だと思います。

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