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防衛研究所の最新資料数点 [記事紹介]

年度末を感じさせますが、防衛研究所(NIDS)のHPには色々と面白い資料が掲載されました。
特に、初めてとなる「中国安全保障レポート」の刊行は注目されるところです。

まずは、毎年、国際安全保障に関する適切な知識の確認の場を提供してくれる「東アジア戦略概観」をみてみましょう。最終章の「日本」は例年通り、我が国の安全保障政策の基本概念をめぐる熱い議論が繰り広げられます。今年は防衛大綱が策定されたこともあり、中間領域論、アジア太平洋の安全保障協力、動的防衛力、拡大抑止に関して、適切なロジック、言い回しの選択の背景が提供されています。

また、各地域に関しても興味深い記述が目立ちますが、ここでは私の研究にからめて、二つの箇所にある、最新の展開を紹介しておきます。

10月 12日、第 1 回ADMM プラスが開催された。会議において各国国防相らは南シナ海問題や非伝統的安全保障での協力に関して協議し、特に人道支援・災害救援、海上の安全保障、防衛医学、テロ対策、平和 維持活動の 5 分野で協力を推進することを確認した。そしてこれら 5 つの分野の協力を具体化するため、専門家会合(EWG)の設立が合意された。また各国は拡大ASEAN 国防高級事務者会合(ADSOM プラス)および拡大ASEAN 国防高級事務者会合ワーキンググループ(ADSOMプラスWG)の設立で合意した。ADMM プラスは 3 年ごとの開催で、次回は 2013 年にブルネイで行われる予定であるのに対し、ADSOM プラスはこの間ADMMプラスで合意された事項の実施に関して協議するものであり、第 1 回は 2011 年にインドネシアで開催されることになっている。なお、人道支援・災害救援に関するEWG には中国とベトナムが、海上の安全保障に関するEWG にはマレーシアとオーストラリアが、平和維持活動に関するEWG にはフィリピンとニュージーランドが、防衛医学に関するEWG には日本とシンガポールが、テロ対策に関するEWG には米国とインドネシアが共同議長に立候補し、12月のADSOMプラスWG において了承された。[東アジア戦略概観2010年、134-135頁]


共同議長方式・・・。東アジア共同体に関する議論に詳しい方であれば、東アジアサミット開催前夜の熱い議論を思い出すかもしれません。ASEANから一国、それ以外(当時は日中韓、今は+8)から一国という方式は、ひょっともすれば、ASEANの中心性を少しずつ剥ぎとる、もとい、中和させることにつながるかもしれませんね。

また、ADMMプラスが軌道に乗れば、個人的にはシャングリラダイアローグはその歴史的使命を終えた、と思うのですがどうでしょう。いや、英仏のような国が絡んでいることに意義がある、という主張はごもっともですが。

アメリカの章では以下の記述があります。

オバマ政権は東南アジア諸国に対する関与も強めている。東南アジアの同盟国であるタイやフィリピンとは、政治、経済、安全保障など幅広い問題について緊密に協力しており、タイとは「創造的パートナーシップ協定」を開始し、フィリピンとは 2011 年 1月に初の「2+2 戦略対話」を行う予定である。インドネシアとは 1998 年以来停止していた軍事交流を再開させることで合意し、11月には「包括的パートナーシップ協定」に署名した。[同、214頁]


少し記述の内容が古いですが、昨年のまとめですので。しかし、アメリカがASEAN中心の枠組み以外のバイ(二カ国)、三カ国、多国間の取り組みを増大させていることは、このブログではすっかりおなじみですが、興味深いものです。

今求められている、新たなトラック2(民間主体)の場は、まさにこのようなアメリカとその同盟国、パートナー諸国の対話の場だと思っています。まずは日米+ミドルパワー数カ国を軸にすればよいでしょう。日米欧の枠組みにも大きな可能性があります。トラック2はトラック1をけん引してこそ意味があり、(特に資源の制約が厳しい時代には)継続は力なり、ではありません。新しいトラック2、新しいアイディア、モメンタムの獲得。期待しつつ、私も汗を流したいところです。

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中国安全保障レポートは、防衛研究所の代表的な新進気鋭の中国専門家が結集して作成されたものです。

ということで、色々と引用して解説しよう、と思ったのですが、なんとコピー&ペイストができない。。。

http://www.nids.go.jp/publication/chinareport/index.html

個人的には、中国指導部の発言を引用して人民解放軍への期待と役割を論じている部分、国際安全保障への参画、特にPKOの経験提供や軍事外交を通じて相手方に解放軍の強さを示して抑止的な効果を得る、という記述が勉強になりました。

英語と中国語も同時出版でなによりです。

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