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アメリカにおける「衰退主義」? [記事紹介]

最近にネットにアップされた、いくつかの興味深い記事を紹介します。

昨秋に行われた、アメリカ中間選挙に関する中山先生の分析。中国認識のくだり、まさにその通りと感じていますが、反発も多いかもしれません。

現在の米国では、いま米国が陥っている苦境は、乗り越えることが可能な状況であり、より構造的なものであり、米国は衰退しつつあるのではないかという不安感が漂っている。今回の選挙において、このような不安感を集約し、増幅させたのが、「台頭する大国」を象徴した中国というシンボルであった。


中山俊宏「中間選挙とアメリカの不安」月刊『東亜』2010年12月号
http://www.kazankai.org/essay_list.html?id=1&name=%C3%E6%BB%B3+%BD%D3%B9%A8&ym=2010-12&file=0

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出典:http://www.time.com/time/nation/article/0,8599,2056582,00.html

実態として中国の成長がもたらしている問題、危険性があるのは事実ですが、アメリカ社会における今回の盛り上がりは、やはり異常ともいえるもので、「衰退主義」ともいわれる、この自己認識の根っこには、アメリカの繁栄が持続可能なのか、軍事力偏重の対外政策によって軍事費を再び9.11後に増大させ他の予算を圧迫している現状が正しいのか、問い直す姿勢もあるかと思っています。すなわち、単純な中国脅威論というよりは、自らへの不安が存在しているということです。

この点に関して、ジョージケナンによるX論文にならって、Y論文として現役の海軍大佐、海兵隊大佐による実名で、ウッドロー・ウィルソン国際センターより出版されたところです。
http://www.wilsoncenter.org/index.cfm?fuseaction=news.item&news_id=683158

アメリカにある、ひとつの立場(“健全な”内向き志向への回帰)を代表していると思います。軍事力の役割を見直し、開発・外交・国防を手段としたうえで、封じ込めではなく開放的な世界のなかでの信頼に値する影響力の確保、そのための国内の健全性の確保、教育・エネルギー等への投資を訴えています。海外でのスマートパワーの行使の前に、スマートな成長が必要だ、という主張はまさに象徴的です。

本文は少し読みづらいものですが、冒頭のAnne-Marie Slaughterプリンストン大教授(前国務省政策企画局長)のまとめが要領を得ています。

関連するイベントをウッドロー・ウィルソン国際センターが月曜日に開催したところ、パネル参加者には、Thomas Friedman(ニューヨークタイムズ)、Steve Clemons(新アメリカ財団)、Keith Ellison (民主党ミネソタ州選出下院議員、初のイスラム教徒の議員) Robert Kagan(ブルッキングス研究所、ネオコンの代表的論客)、Brent Scowcroft(ブッシュ政権(41)の国家安全保障担当大統領補佐官)、Anne Marie Slaughter教授。

アメリカ国内における、「衰退主義」とそれへの反論、部分的な肯定など、中間選挙前に大きく盛り上がった議論は、収束するどころか、むしろ盛り上がっていると感じています。

リビア問題やアフパック(アフガニスタン・パキスタン問題)、または北東アジアでのアメリカの対応にも、このような悲観的なパワー認識は影響してくるのでしょうか。おそらく短期的にはそのようなことは起きない(アフパック、イラクでの過度な負担のためリビアでの対応など徐々に負担シフトの色が濃くなってきていることに留意しつつも)、中長期的には軍事予算の削減、外交・開発へのシフト(QDDRも参照)、同盟国への負担シフト、アメリカ国内の重視という流れが強まるのでしょう。とりあえずは2012年という選挙年に向けて、議論の大きな底流となってくると考えます。

単純な孤立主義への回帰ではないことに大きく注意を喚起しつつ、しかし、このような認識がいかなる政策選択へつながってくるか、注目していきたいところです。

さて、

畠山先生の論考は、エジプトへのアメリカの対応の問題の本質を鋭く分析されています。現在のリビアへの対応をみていても、示唆的かと思います。

畠山圭一「ムバラク退陣とネオ・リベラル外交―米政権内でくすぶるネオ・リベラル対現実主義の対立―」
http://www.rips.or.jp/from_rips/rips_eye/no133.html

リビアに関しては、空爆開始直後のエコノミスト誌に掲載されていたキャメロン英首相の記事も興味深いものでした。(飛行機の中で読みました。先月、飛行機だけで12回乗っているんですよね、、合計50時間弱。。CAを超えそうです。)

"The ghost of Tony David Cameron leads a sceptical nation to war" The Economist, Mar 24th 2011
http://www.economist.com/node/18440625?story_id=18440625&CFID=167907164&CFTOKEN=94189308

最新の話は、コロコロ変わるので、それは新聞でフォローしてください。
ただ、以下のキッシンジャー・ベーカーの歴代国務長官によるオピニオンは一読に値します。
Grounds for U.S. military intervention
By Henry A. Kissinger and and James A. Baker III, Friday, April , 7:10 PM
http://www.washingtonpost.com/opinions/grounds-for-us-military-intervention/2011/04/07/AFDqX03C_story.html

話はさらに変わりますが、安保改定50周年セミナー(防衛研究所)の論文もアップされました。
http://www.nids.go.jp/event/other/just/index.html
楠綾子「吉田茂と日米同盟の形成」 
千々和泰明「安保改定における「相互性の確保」と「抑止力の維持」」

外交フォーラムの後継雑誌『外交』(時事通信社)の第1号も、若干時間が経ちましたが外務省HPで公開されています。今後も公開予定とのこと。発行月だけ誰でも読める『国際問題』とともに、学生をはじめ広く読んでもらいところです。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/gaikou/gaikou.html

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最後に、アメリカのアジア担当高官が少し変わります。

日本にとって悪いことはないと思いますが、対中政策の基本ラインを構築してきた高官が入れ替わることで逆にバタつくことがあればそれはそれで面倒かと思います。これからの2年間は先述の通り選挙との関係もあり、去年ですっかり懲りた中国が下手なことをしなくても米中関係では色々と波風が立つため、うまいマネージメントが求められるところです。

http://www.nytimes.com/2011/04/09/world/asia/09diplomacy.html?_r=1

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