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北朝鮮の変化に備える [記事紹介]

北朝鮮関係で、話題の研究報告がKEIよりでました。
「ネルソン・レポート」でも、米国と同盟国の軍、情報関係者も入っているチームの構成にもかかわらず、現在のアメリカ政府の方針と真っ向から異なる政策を打ち出している、と驚きをもって紹介されています。

Michael J. Mazarr & the Study Group on North Korean Futures, "Preparing for Change in North Korea: Shifting Out of Neutral" KEI Academic Paper Series, vol.6, no.3 (April 2011).
http://www.keia.org/Events/APS/2011/Mazarr.pdf

主査のマイケル・マザール博士は、30代でのシンクタンク理事長などを経て、国防大学教授。7,8年前、大学院にいたころ、2回ほど国防大の学生(佐官クラス)の研修旅行の引率として本郷のアメリカ政治のゼミでお会いして、そのあともDCに行った際に将来の相談に乗っていただいた、そんな思い出があります。

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全てを紹介することは到底できませんが、興味深い点をいくつか。

・北朝鮮の現政権のしぶとさは、外貨の獲得、(外国からの)人道支援、根強いナショナリズム、支配者層にある利害関係の共有、市場における新たな展開、シンボルとしての金一族、恐怖の7点による。北朝鮮のシステムは既に、正統な統治体としては融解し始めているが、恐怖と個人的な(利害に結びついた)忠誠心が支えになっている。

・北朝鮮の外貨獲得は非合法ビジネスに多くを拠っているが、支配者層の繁栄と武器購入を支えている。

・(政権の統制しようとする努力にもかかわらず)闇経済や政府公認の民間企業が成長し、個別の利害を重視する社会的階層が登場しつつある。それは中流の特徴を示しつつある

続けて、、、
in the long run, members of this middle elite may become a crucial group during any transition scenario. As of now we know little about them, but their mere existence suggests possibilities for U.S. and South Korean strategy.(p.3) 長期的には、これら中流の支配層はいかなる変化のシナリオにおいても重要なグループになるだろう。現在のところ、我々が知りえるところは少ないが、彼らの存在はアメリカと韓国の戦略に可能性を提起している。


この報告書の肝はここにあります。北朝鮮内部では必ずしも金一族とのCrony Capitalismにならない形で中産階級が生まれつつあるということ。これに続けて「レジーム(政治体制)の変容のためのウイルスは、既に北朝鮮の血脈に」という表現まで出てきます。

海外より買いつけられた30万台の携帯電話によって「かつてないほどに情報が社会にいきわたっている(penetrating)」とも。続く項目でも、これら新しい中流層は金ファミリーと距離を置きながら市場より多くの利益を上げており、従来の支配者層を脅かしているとも。

これまでのアメリカの政策に対して、北朝鮮を「一枚岩」とみるべきではない、と強く迫っているのです。

肝心な7頁以下の提言、最悪の事態に備えるための米韓での準備、日本や中国も想定していると思われる、不測の事態への対応に簡単に触れた後、

Part IIIとして、上述の北朝鮮内部情勢の分析を踏まえ、私の言葉をあえて使えば「浸透」作戦ともいえる、政策を提案しています。情報の流入を社会的、経済的に支えることで中間層に影響を与えるべし、ということです。

また、個別の政府関係者への働きかけ、脱北者ネットワークも活用の道が増えているとしています。外界との接触を増やす、海外にでてきた北朝鮮人への働きかけを強める(情報を流入させるため)、技術者、科学者の交流も進めるべき、ラジオも、と続いていきます。

北の体制崩壊を歓迎することも、力づくで実行することも難しいなか、さらに交渉も根本的なところで問題解決に至るには難しいとすれば、抑止と不測の事態への備えを強める、というリアリスティックな対応に加え、より中期的なアプローチとしてこのような見解がでてくるのは、ある意味で当然です。冷戦期の対ソ、対中ではいくらでもあった発想です(韓国的な太陽政策との違いは読めばわかります。たとえば、北への投資についてはこの報告書は否定的に読めます。)

提言の前提となっている、北朝鮮内部の情勢分析に疑問を持つ方も多いでしょう。私も素直には信じられません。しかし、このチームが根拠なく、そこまでいうのかと。(ただし、この報告書は北朝鮮軍内部が指導者交代で割れているとは一切言っていません。また、これら中間層への働きかけも中長期的な変化の展開の中で、効果を持つ、という議論の仕方です。)

議論の進め方が丁寧で、プロの仕事を感じる報告書でした。休日の朝一番に読む内容ではなかったとは思いますが。[ふらふら]

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