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日本外交・「有識者」アンケート [記事紹介]

昨日は、朝から2時間、北朝鮮問題と日米同盟という共著の出版に際してのセミナー(著者なので)、1時間で四谷から横浜に駆け足で行き、ゼミ、講義、講義の3コマ。

さすがに、これはきつい。この日一日のための準備だけでも週末がつぶれました。

そして、セミナーでは「(検証つきの核放棄プロセスがすぐに達成できそうにない以上)六カ国協議は『茶番』ではないか」という深遠な問いが何度も繰り返される。 

たしかに効果は薄いかもしれませんが、別にそれが抑止や不測の事態への備えと矛盾するわけではなく同時に進めればよいのであって、北の核開発を助長するわけでもなければ、そして少しの成果が得られる望みがあるとすれば、六カ国協議は今後も残しておく必要がある、とは思います。なお、現時点では、六カ国協議の早期再開よりは、南北、米朝、日朝といったバイ(二カ国)協議の模索が重要だと思います。(中国をけん制するためにも。まあ、質問者は交渉一切を否定的にとらえていたような気もしますが)

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国際問題研究所より、日本外交の「有識者」アンケートの結果がでています。
http://www2.jiia.or.jp/kokusaimondai_archive/2010/2011-04_005.pdf

問いが単純であるからこそ、バリエーションのある豊かな回答が寄せられています。

1.今後の国際情勢において何が最も重要な問題になると考えますか? 2.日本外交の今後の方向性はいかにあるべきと考えますか? 3.日本の外交・対外政策決定過程に関し、現在の仕組みについての評価および今後のあるべき姿をお示しください。


すべてを読むには時間がかかるため、回答を読んで、という高原教授のコメントが要領よくポイントをまとめているので、必読です。
http://www2.jiia.or.jp/kokusaimondai_archive/2010/2011-04_006.pdf

中国の軍事的な台頭、米中の勢力バランスと両国間関係の行方、そして東アジアさらには世界全体において協調的な国際関係を維持していくための新しい枠組みの構築を挙げる回答が多かった。(略) 今後の中国にとって最も重要な問題のひとつは政治の改革である。それが平和裏に、安定軌道をたどって行なわれるかどうかは、世界に大きな影響を与えるであろう。それを指摘する人が少なかった(略) 中国問題に関心が集まったのに比べて、朝鮮半島問題や、テロや大量破壊兵器、格差拡大や水不足、気候変動などの非伝統的脅威を挙げる回答が比較的少なかった


このアンケートに限らないのですが、有識者アンケートは、一般国民への調査と比べて、どれほど類似性があるかまたは違いがあるかという見方をすると面白いです。

第一問に関しては、あまり一般と異ならない結果が得られているような気がします。

言うまでもなく、昨年の尖閣問題を経て、日本国民の間での対中認識は劇的に悪化しています。

マスコミもやっていますが、内閣府調査でもそれは顕著です。
z10.gif

なお、4月に公表された、13年1月実施の社会意識調査では、外交への問題意識が増加しています。
北朝鮮問題や多くの安全保障上の課題も作用しているとは思いますが、やはり中国ファクターは大きいのでしょうね(結び付ける材料はこの調査ではありません)。

(5) 悪い方向に向かっている分野  現在の日本の状況について,悪い方向に向かっていると思われるのは,どのような分野か聞いたところ,「景気」を挙げた者の割合が57.7%,「国の財政」を挙げた者の割合が55.7%と高く,以下,「雇用・労働条件」(52.3%),「外交」(46.3%)などの順となっている。(複数回答,上位4項目)  前回の調査結果と比較してみると,「景気」(63.1%→57.7%),「雇用・労働条件」(56.5%→52.3%)を挙げた者の割合が低下し,「国の財政」(47.6%→55.7%),「外交」(28.3%→46.3%)を挙げた者の割合が上昇している。  都市規模別に見ると,「外交」を挙げた者の割合は大都市,中都市で高くなっている。  性別に見ると,「国の財政」,「外交」を挙げた者の割合は男性で高くなっている。 内閣府「社会意識に関する世論調査」 http://www8.cao.go.jp/survey/


アンケートに戻ります。
興味深い指摘が続きます。

日本外交の方向性はかくあるべしという回答のなかで最も多かったのは日米関係の強化、再活性化、あるいは日米同盟の維持であり、それに直接、間接に言及した回答は約4 割5 分に上った。いささか乱暴にこれらの回答を分類すれば、中国あるいはロシアなどの大陸勢力とのバランスを重視する立場と、日米関係を基軸としながら、東アジア諸国との二国間関係ないし多国間枠組みを発展させることを強調する考えに分けられる。そして回答の比率から言えば、後者の立場がかなり多かった。特に、東アジアあるいはアジアとの多角的な協力関係を発展させ、地域の新しい秩序の構築を目指すべきだとする回答は全体の約4分の1に達した


「回答のなかで具体的に提案される国家像や国家目標はさまざまである。」という段落も面白いところです。

また、対外政策過程に関して、政官連携の強化、国家安全保障会議の設立、という回答が多かったということは、政治任用のことも想定されているのでしょうか。しかし、そのためには、政治の安定に加え、家庭と家計の不安定を顧みず政治家と官僚のために一肌脱ごうという人物が必要なのですが、果たして、この日本にどこまでそのような人物はいるのか。いや、実は案外いるのかもしれない。この点はよくわかりません。

なお、最後に高原先生は以下を指摘します。
意外だったのは、広報の強化を訴えた回答が2 件しかなかった点である。「公衆外交」ないし「パブリック・ディプロマシー」という言葉を使った回答はひとつもなかった。日本が外交能力を高め、かつソフトパワーを強めるうえで、内外に向けた広報体制の強化は欠かせない重大事ではないだろうか。


日本の「有識者」の方々には是非、この点に関してもっと理解を求めたいところです。。。

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