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再び動き出した米朝交渉は非核化につながるのか [雑感]

聯合早報(シンガポール)への寄稿6回目です。

佐桥亮:再次启动美朝谈判能否实现无核化?『聯合早報』2018年10月8日

前回の投稿はこちら。
北朝鮮を取り巻く融和ムードは当面変わらない(7月20日)

詳細な分析は、佐橋亮「米朝首脳会談後の北東アジア-融和ムードと非核化の行方」『東亜』2018年9月号

前回に指摘したとおり、融和ムードのなかで小出しの成果を好む米朝それぞれの事情には変化がなさそうです。ポンペオ訪朝後、ビーガン・崔(?)での実務者協議での調整、そして第2回米朝首脳会談の実現を模索していくとは思いますが、ディールは小ぶりに終わったとしても前進がアピールされるのではないでしょうか。

ただし、米政権内の慎重派はかなり政策形成のなかに存在しているようにも見受けられるので、今後トランプ政権内での綱引きがどうなるのか(施設リストがでなくても北との信頼形成を優先させるのか)。また悪化の一途をたどる米中関係のなかで、中国はどう振る舞うのか。このあたりに注目しています。

北朝鮮は安全保障を求めるためにも、また自らの論理的整合性のためにも、世界的な軍縮プロセスのなかに自らの非核化を捉えています。(参考)北の非核化への(本当の)一歩は、形式的ではなく実質的な核武装からの離脱を意味するものであるべきですが、果たしてそれは、いかなる条件で起きるのか。


日本語仮訳は以下の通りです。

 ポンペオ国務長官の平壌訪朝がキャンセルされた8月下旬に、米朝交渉の機運はいったんしぼんだかにみえた。しかし、韓国・文在寅大統領の平壌訪問と南北関係の進展、そして金正恩委員長からのメッセージを携えてニューヨークを訪れた文大統領の仲介外交によって、再び米朝関係は動きはじめた。

 美しい手紙をもらい、そして私は金正恩と恋に落ちたと、トランプがアメリカの支援者の前で告白すれば、あれほどこだわった終戦宣言よりも、まずは経済制裁の緩和が必要だと北朝鮮は要求を変えてきた。米朝は互いに、相も変わらず非核化よりも別の事情から米朝交渉を捉えているようだ。

 トランプ大統領は中間選挙を前に、成果とアピールできるものをかき集めている。最高裁判事の任命や司法副長官をめぐってスキャンダルが絶えず、政権内の醜聞がメディアでさかんに騒がれるなど、内政になかなか好材料はない。貿易での妥協を同盟国に迫り、貿易赤字に加え米国内政にも干渉していると中国を責め立てている。同様に、オバマ大統領にいたる過去の大統領が成し遂げられなかった北朝鮮の独裁者との交渉をみずからが行っていると宣伝することは重要なのだ。

 ポンペオ長官による北朝鮮との再交渉を経て、第2回米朝首脳会談が年内にもセットされる可能性はかなり高い。場所はたいして重要ではないが、シンガポールの友人たちがあの大騒ぎに再び巻き込まれることはどうもなさそうだ。

 注目点は米朝首脳会談が再び行われるとした際に、どのような取引が生まれるのかということだろう。もちろん、どちらにも確たる情報はなく我々は推測するしかない。しかし、たとえば9月に平壌で行われた南北首脳会談で取り交わされた、板門店宣言履行のための軍事協力に関する合意を前向きに評価する声がアメリカにもあることは重要だ。南北の合意は相当に踏み込んでいるが、エスカレーションしかねない南北関係を安定させることはアメリカにとって利益ともいえる。これは非核化プロセスとは本来異なるが、融和した国際的雰囲気を背景に北朝鮮との交渉を続け、信頼を形成すべきという考えが、アメリカの北朝鮮政策に影響する可能性はある。

 もちろん、非核化の進展に固執すべきであり、それが難しいことから結局は交渉が上手くいかず2017年のような緊張関係に戻るしかない、という見通しを語るものも米政府にはいるようだ。それらの慎重論はトランプ大統領に必死に働きかけるだろう。しかし金正恩委員長には、メッセンジャーとしても厳しい要求への盾にもなる文正寅大統領という仲人役に加え、いまや恋人になったトランプ大統領がいる。北朝鮮の軍事的な挑発行為が止んでいる以上、この愛に満ちた関係は容易には崩れない。

 中国の立場は微妙なものになりつつある。すでに北朝鮮は自らの意思でアメリカとワルツを踊っている。米中関係の緊張は高まるばかりであり、北朝鮮問題で大きな役割を果たしても、それがアメリカの対中強硬姿勢を和らげるとは、なかなか思えない。トランプは北朝鮮問題の前に中国に取り組むとツイッターをつぶやいたが、現実には二つの問題は別トラックで動きつつある。中国抜きで米朝、韓国が終戦宣言を行うほど中国が外されていくとは思わないが、北朝鮮をめぐる国際交渉は長期的な課題である米中競争とは別の文脈を強めつつある、とは言えるだろう。中国もそれを理解したうえで、朝鮮半島での利益確保を図ってくるだろう。

 このような進展をみるにつれ、非核化プロセスが一層置き去りにされていることに懸念せざるを得ない。南北の平壌宣言は非核化の意思を確認したのみで、2005年の六カ国協議の合意から、問題は一歩も前進をみせていない。引き換えに渡されるものだけが、どんどんと大きなものになっている。しかし、朝鮮半島の平和作りにむかう動きが、終戦宣言や制裁緩和にとどまらず、連絡事務所の設置や米韓同盟の見直し、平和協定作りへと向かうのであれば、非核化が大前提のはずだ。

 それはIAEAの査察を含めた国際的なプロセスでなければならない。いくつもある関連施設の一部を放棄すればよいと北朝鮮政府に誤解させてはならない。核開発に関して情報をすべて開示せよと、北朝鮮に強く迫る交渉をアメリカの外交官には期待したい。最大の障害は自国の大統領だとは思うのだが。

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