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ファーストレディー演説 若者よ、留学せよ、 [記事紹介]

留学する学生がアメリカにとっていかに重要か、という話。送り出すことも、受け入れることも下手な日本社会からは、いったいいつ、こういう演説が生まれるのでしょうか。

※中国の国名があげられているのは、政策として中国への留学のイニシアティブが表明されている、胡錦濤訪米の最中という文脈があるためです。

But let’s be clear: studying in countries like China is about so much more than just improving your own prospects in the global market.

The fact is, with every friendship you make, and every bond of trust you establish, you are shaping the image of America projected to the rest of the world. That is so important. So when you study abroad, you’re actually helping to make America stronger.

And these experiences also set the stage for young people all over the world to come together and work together to make our world stronger, because make no mistake about it, whether it’s climate change or terrorism, economic recovery or the spread of nuclear weapons, for the U.S. and China, the defining challenges of our time are shared challenges. Neither of our countries can confront these alone. The only way forward, the only way to solve these problems, is by working together.

That’s why it is so important for more of our young people to live and study in each other’s countries. That’s how, student by student, we develop that habit of cooperation, by immersing yourself in someone else’s culture, by sharing your stories and letting them share theirs, by taking the time to get past the stereotypes and misperceptions that too often divide us.

That’s how you build that familiarity that melts away mistrust. That’s how you begin to see yourselves in one another and realize how much we all share, no matter where we live.

このあと、中国への留学生倍増に向けた取組が紹介されています。
教育面における交流が米ソ冷戦の末期、ソ連国内でもたらした効果もそうですが、国際交流の効果について、総合的な研究は今再び取り上げられる必要性があるという気になってきました。

ただ、木曜日にある方と昼食を挟んで2時間以上色々とお話ししたときに力説したのですが、教師としての実感では、今の大学生は世界に関心がないわけでも、内向きになったわけでもない、ということです。むしろ、その可能性を奪っているのは、就職活動、入社前研修など近視眼的な視点からしか行動しない企業や対応できない政府にあると思います。学生たちの世代は、機会さえあれば、またお金さえあれば、外を見てみたいと思っていますし、日本の多文化共生社会に向けた動きにも、これまでの世代よりも希望が持てると思います。(もちろん、ナショナリズムを持つ、一部の若者が社会不満が高まったときにどうなるか、という問題はあります。)「若者は内向きだ」という結論だけではなく、一段深めた理解が必要だと、最近よく思います。

原文
http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2011/01/19/remarks-first-lady-her-100k-strong-state-visit-event
ホワイトハウスブログ
http://www.whitehouse.gov/blog/2011/01/19/first-lady-michelle-obama-when-you-study-abroad-you-re-helping-make-america-stronger

アジアを取り巻く、記事数本 [記事紹介]

ここ最近の面白い記事をいくつか。

自衛隊、東南アジア諸国支援…来年度から (読売 1月5日) 
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20110105-OYT1T00671.htm

日米印が戦略対話創設へ…中国の海洋進出けん制(読売 1月5日)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20110104-OYT1T00865.htm

自衛隊と韓国軍、協力強化へ…北・中国けん制(読売 1月4日)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20110103-OYT1T00563.htm

日米豪韓 安保対話を定期化へ 中国・北朝鮮にらみ結束強化(産経12月15日)
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/101215/plc1012150200000-n1.htm

最初の記事は、能力構築支援(いわゆるキャパシティー・ビルディング)のために防衛省に室が設置され、予算がつくかも、という話。2本目は日米印で局長級から戦略対話を開始とのこと。日米豪モデルの踏襲でしょうか(しかし、日米豪は次官級(田中外務審議官出席)から始まったので、若干低いです)。3本目は日韓関係の強化について。

最後の産経記事については豪州の出方次第とも言われいます。
そもそも豪州を入れた四者であればグローバルな安全保障課題(アジアで実施するものに焦点を当てつつも)が中軸に据えられ、北東アジアに関する枠組みという色が薄まるので、日韓、日米韓関係の強化を代替するものとはなりづらいでしょう。

しかし、それにしても、唯一の同盟国であるアメリカ以外との安全保障協力の強化がどしどし進む状況を、正確にとらえ論じてきたものたちの少なさ。または一面だけを見て、全体のアーキテクチャ(構造)が変化している(それは米ロが参加する東アジアサミット、拡大ASEAN国防相会議も例外ではない)をとらえる枠組みのない議論の多さ。

ということで、我々の研究会の議論は日本初、だったのです、と宣伝したくなるほどの状況です。

研究報告書「アジア太平洋の地域安全保障アーキテクチャ―地域安全保障の重層的構造―」
http://www.tkfd.or.jp/research/project/news.php?id=632

上記報告書にあるように、同盟を基盤にした関係、能力構築や対話を強化するための枠組み、全域的、包括的な地域主義の枠組みの組み合わせこそがアジア太平洋の「今」。「東アジア共同体」がすぐにできるわけでもなければ、「日米同盟」だけですべてが解決、という時代でもないのです。

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アメリカでは政権のアジアチームの布陣が変わるという報道が出ています。
特に、ジェフ・ベーダーNSCアジア上級部長(ホワイトハウス・アジア政策のドン)の勇退がほぼ確定報となっていることは注目に値します。彼は悪化の一途をたどった米中関係の2010年を支えた、(傲慢で力づくな姿勢にぶれることのない)関係の適切な管理者であり、70年代から政権に入った経験のあるベテランでした。報道では少し高齢となった彼自身が2年間の公務で既に消耗しきったことも理由にはいっているような書きぶりですが、政権内での対中タカ派とのバトルにも疲れたのかもしれません。

胡訪米後、後任人事。候補は、ダニエル・ラッセルNSCアジア部長、デレック・ミッチェル、マイケル・シーファー(ともにアジア担当の国防次官補代理:前者は首席代理)、フランク・ジャヌージ(上院スタッフ)。
どれが来ても、日本理解が深い方たちなのでそれほど心配することはないでしょう。

NSC内部でのラッセル昇格の確率が高いのかもしれませんが、「ついに」ジャヌージが登板しても面白いです。彼はもとは国務省のチャイナ・ハンズ(中国語もできる)、その後バイデン副大統領の上院でのお気に入りという流れ。日本にも外交問題評議会日立フェローで一年間滞在。人格に優れており、思慮深く、逆にその擦れていないところが政治任用職には向いていないとまで言われるほどの人。(僕の業界ボスと彼の娘さんが一緒にバースデーケーキのろうそくに向かって息を吹きかけている写真が僕の手元にあります。。)

ほかにも、ドノバン、シアーといったキャンベル国務次官補の代理(審議官級)2名が交替になるとのこと。ドノバンは駐韓大使かカンボジアだそうです。

Big changes coming to Obama’s Asia team
Posted By Josh Rogin Tuesday, January 4, 2011 - 8:52 PM
http://thecable.foreignpolicy.com/

もうひとつの記事は、ハンツマン中国大使について。アメリカの中国政策の重要人物で、ベーダー氏とはUSTRでの上司、部下の関係以来気脈を通じているといわれています。しかし、元ユタ州知事で、共和党の2012年有力大統領候補といわれていたため、大使任命のときより、これは民主党の共和党候補つぶしとか言われていました。今も、(2012年への態度を鮮明にしない限りは)彼に重要度の高い情報を渡すことが難しいだろう、とのコメントがこの記事には掲載されています。

(閑話:ハンツマン氏とは一回だけお会いしたことがありますが、握手とか立ち居振る舞いとか、大使のレベルでは到底なく、あー、今、将来の大統領と握手したかも、という感動が残りました。)

しかし、ハンツマンの大統領選への意欲、準備は現時点ではみえていない、との内容。とはいえ、政治は一寸先は闇。準備も最後はドタバタでやってしまう可能性もあるので、しばらく不透明な情勢が続くのでしょう。

12年をにらみ、11年は徐々にきな臭く、色々な動きが始まってきますね。(ゲーツ国防長官も、12年の選挙年前の11年中に退任の意向との報道です。それが起きれば、国防総省の人事も大きく動きます。)

Democratic praise for Huntsman could be the GOP kiss of death
Posted By Josh Rogin Wednesday, January 5, 2011 - 1:46 PM
http://thecable.foreignpolicy.com/

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年末の合併号の週刊東洋経済で、ビジネスパーソンが読むべき政治書の4冊のひとつに、「変貌する日本政治」(勁草書房)が選ばれました!ありがとうございます。特に政治変化については面白い論文が並んでいますので、是非ご一読ください。
(私の手元にまだ何冊もあるので、上にあげた報告書もそうですが、読んでいただける研究者の方は私まで連絡ください。献呈いたします。)

中国関与派の憂鬱 [記事紹介]

2回前のエントリーで書いたように、締め切りを2ヶ月と少し遅れていた原稿の督促から最早逃げられないと腹をくくり(いや、これまで本当に時間がなかっただけなのですが)、木曜から改訂作業を始め、今日の朝も5時から執筆、11時に入稿原稿を仕上げる。4800Word(日本語だと1万字くらい)のさくっとした原稿なのに、本当に、ほんとーーにつかれた。

今日午後は国際会議。日中の軍事力の将来評価、国際環境の変化(5-15年後)、とるべき外交、安保政策などについて、DCからの偉い方3名の訪問を、20名弱の在京専門家と政府関係者で迎える。

で、真面目に内容を考えることもさることながら、会議の中盤で、みんなもつかれたところでどうやって笑いをとろうかと考え続け、こんな「つかみ」をしてみました。
(が、会場笑い率30-40%、不発気味[ふらふら]


米フォーリン・ポリシー誌のWeb最新記事で、クリスチャン・カーライル氏は南シナ海や黄海における中国の強硬な姿勢によってアメリカにおける対中関与派が論拠を失っていることを「パンダハガー(パンダ=中国、ハガー=中国を抱く=関与派)のハングオーバー(二日酔い)」と表現した。

なぜか、私も今日は朝からハングオーバー気味である。

というわけで、今からハングオーバーから回復するために、対中外交のあるべき方向性、日米同盟が直面するシナリオについて幾点か、挑戦的なことを述べたい」(英語)

…だめですか? ハングオーバーを自分の低調さ(わざとつらそうな声)と、少し対中関与っぽい僕の普段のリベラルな姿勢とひっかけて、今日は違うことをいいますよ、という自嘲気味、捨て身のジョークなのですが。
pandahangover.jpg

ちなみに、記事はこれ↓
http://www.foreignpolicy.com/articles/2010/08/04/panda_hugger_hangover

おまけに、これも。
http://thecable.foreignpolicy.com/posts/2010/08/06/is_the_obama_administration_getting_tough_on_china

シカゴ仕込みのアメリカンジョークは、どうも東海岸には受けが悪いようで。となりの政府高官が大笑いしてくれて助かった。

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週末はそれにもかかわらず、うなぎがどうしても食べたくて、後輩と近場で浅草に。「小柳」の2階。「初小川」は予約で満席で追い返されました。けど、2100円(高い方)の鰻重で十分おいしかったです。8.7(ハナ)ということで、当日はハナビ(花火)の日のようで、電車は浴衣ばかり。

日曜日は、やはり気晴らしに本屋に。また2万円越え。買った本。平岩俊司先生の「朝鮮民主主義人民共和国と中華人民共和国」、柘山堯司先生編集の「集団安全保障の本質」、リチャード・ファロン「アメリカ憲法への招待」、二アール・ファーガソン「マネーの進化史」、真渕勝「官僚」、菅原出「民間軍事会社」の文庫版(新たな章も)など。キショール・マフバニ「アジア半球が世界を動かす」も翻訳が出ていることを知らず、つい購入。学生に、参考として読んで欲しいかも。

それにしても、地元の駅前本屋のわりに、なぜにここまで品揃えがよいのか。くまざわ書店、すごい!

本を買ったのに、英語でも資料収集。CSIS(戦略国際問題研究所)東南アジアプログラムのフェースブックやツイッタ-の情報共有が良くできているので、ほかの情報ソースの読んでいなかったもの(外交問題評議会のレポートとか)とあわせて、一気読み。

さあ、明日から次の原稿+改訂原稿などに向かいます。
(あー、夏休み、をしたい。せめて線香花火。[イベント]

在日米軍 (補筆) [記事紹介]

在日米軍の広報戦略・・・。

今週会った、星が一杯ついたおじさんとかペンタゴンの旧友はこのマンガをかけらも宣伝しませんでした。もっと自信持てよ、広報戦略なら。

http://www.usfj.mil/Manga/Index.html

main-manga-usa-japan.jpg

明日は2010年よこすか開国祭 開国花火大会。基地も開放されます(ネイビーフレンドシップデー)。まあ、漫画もいいですが、一度基地に行ってみることはいいことかな、と思います。

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このマンガをめぐって、NY在住のアメリカ人二人とメールで議論中。このマンガ冒頭で出てくる、アメリカを象徴しているキャラクターの「ゴキブリ退治」が、敵を人間と認めず、虐殺などのときに使う比喩(ナチスも、ルワンダ虐殺でも使用されている)で好ましくない、と。リベラルなアメリカの方の意見を代弁していると思います。

僕の反論は、①ここでの作者の意図はゴキブリ=怖さと危害を与えてくる可能性のある漠然としたもので、具体的な敵を想定して人間性を否定しているものではない、②逆に、特定の敵として人間のキャラクターを登場させれば、それが何人か、ということで、逆に読者に特定の民族を想起させてしまう、ということ。

皆さんはどう思いますか?


2日目 金融危機、日米安保パネル [記事紹介]

会議が始まり、初日は午前に金融危機、午後に安保でパネル、またそれぞれグループに分かれて議論。
安保パネルではスピーカーでした。

私の話の内容は、

・ かつて北大西洋条約機構(NATO)初代事務総長がNATOの本質を「アメリカを引き込み、ドイツを封じ込め、ロシアを排除する」と論じた。
・現在はロシアを「排除」し続けることに関して、それ「だけ」ではいけないので、NATOロシア評議会を再活性化する、またはカプチャン教授のように「ロシアのNATO加盟」を将来的には睨む、という視点が必要ではないかと言われている。

・日米同盟に当てはめてみると、冷戦期の本質は「アメリカをアジアに引き込み、日本の軍国主義を封じ込め、ロシアを排除する」(もちろん欧州とは異なりアメリカは自らの意志でアジアに関わった点も大きいが、吉田路線がアメリカを引き込む発想であったことも事実)。

・今は「アメリカを引き続きアジアに引き込み、日本を国際情勢に関係する(relevant)国家として位置づけ、中国に対抗する/取り込む」という性格なのではないか。

・「アメリカをアジアに引き込む」:この理由は明らかで、伝統的な脅威として朝鮮半島・(台湾)があり、中国の成長に対抗する必要もある。さらに、(私らしいのですが)テロ、WMD拡散、海賊、災害救援など非伝統的脅威においてもアメリカを中心とするネットワーク化が進んでいることを強調し、アメリカ抜きの秩序が成り立たないと言いました。アセアン中心の枠組みが弱いことがアメリカと日本中心のネットワークを実質的に招いているとも。

【中国国防費: 公表値でも日本を抜き、ロシアと並ぶ。現在のペースで計算すると、公表値でも2030年には日本の7倍程度になります】
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・「中国に対抗する/取り込む」:そのうえで、私は中国を秩序形成に「取り込む」視点が重要だと論じました。もしそれが十分に達成されなければ、結果的にはたとえば、北朝鮮問題での問題の前進は難しいし、上海など重要な都市が国際的な取り組みにおける「抜け穴」になって、グローバルな犯罪、テロ、拡散などへの対抗を不十分なものにしかねない。これまでには中国による「遵守」重視の見解があった(ステークホルダー論など)が、そのような発想に加えて、中国を取り込んだ秩序の再構築という視点を持たなければ中国は乗ってこないし、それに失敗すれば、中国を中心とした秩序とアメリカを中心とした秩序に分断されるアジアが登場するかもしれない、としました。政策的含意としては、中国の国際的地位を多少なりとも引き上げるような枠組み形成(G-2は行き過ぎ、G-20は大きすぎ)が必要、ということです。

・まとめると、日米同盟が形成された時期に比べて国際環境は変化しているなかで、同盟の重要性を確認しつつ、その役割には拡大がある。また外的な脅威としてロシアのように単純に中国を代替させることもできない、ということです。

【上海協力機構サミット】
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安保パネルは(聞き手である、同僚フェローも含め)比較的、ハト政権に厳しく、日米同盟を中国や朝鮮半島などの伝統的安全保障観から捉える見方が強かったように思えます。

「中国を最初から不確実性だけから判断して脅威とみなす見方はあまりにもアメリカ的ではないか」という問題意識がフロアーからあがったのは、目の覚める質問でした。専門家は能力が伸びていること、また一部の意図が不明な行動を重視しすぎなのは事実かも知れない。

沖縄問題についてもいくつか。基地の地政学的な重要性は理解しつつも、どのように問題を解決すればいいのか。これはハト政権がパンドラの箱を開いた点はあるけど、旧与党がなにもできなかったことも事実。普天間が町のど真ん中にあることをあるスピーカーはgoogle earthをつかって示していました。私からは、返還後に本土の基地がどんどん無くなっても沖縄の基地はあまり変わらなかったことが、「押しつけられた」という感覚を沖縄に作ったことには触れておきました。

今日も一日会議。ただ、夜にはマリナーズ対ホワイトソックスを観に行きます[野球]

朝日・声欄での世代間論争 [記事紹介]

朝から暗い話題で恐縮ですが(これを書いているのが、私は朝だということです)、朝日の読者投稿、声での論争を紹介します。 

5月10日、以下のような内容で、「教頭先生の再就職に疑問」という女子高校生の投稿が掲載されました。

「私の高校で4月に定年退職された教頭先生の退任式がありました。教頭先生はあいさつの中で「定年後は近くの公立福祉施設で働きますから、また皆さんに会えるかもしれません」と話されました。
 しかし、私は、堂々と話す先生の笑顔に驚きました。なぜなら、日本は長引く景気の低迷で、高校生や大学生が卒業後の就職先がなかなか決まらず、焦り苦しんでいるというニュースをよく目にするからです。
 定年退職後の公務員の方々は、半ば当然のように第二の職場をあっせんしてもらっていると聞きます。若者たちが明日の仕事が見つからずに右往左往しているのに、どういうわけなのでしょうか。しかも、退職後の仕事は、軽い業務内容の割に賃金はそこそこ高いらしいのです。私には税金の無駄に思えます。
 こうした慣習はやめてほしい。本当に働きたくても働く場のない多くの若者のことを考え、定年後の人たちは潔く身を引いていただきたいと思うのです」


これに対して、5月16日に、「定年後も働きたい思いに理解を」という68歳の方の投書が掲載されています。

 
「教頭先生の定年再就職に疑問」(10日)を読み、強い衝撃を受けました。福祉の仕事で新たな人生の船出をする先生を、投稿者の高校生は祝福するどころか、働く場がない若者のために身を引くよう、促しています。卒業しても安定した就職先を見つけられない若者たちの苦しみ、高額の退職金を何度も受け取り、天下り先を渡り歩く一部官僚への怒りを、文面からひしひしと感じました。
 同時に、定年後も働こうとするすべての高齢者にその怒りが向けられているようで、恐怖さえ感じました。投稿をされた方、その主張に共鳴する若い人たちに、心から訴えます。私を含め、定年後も働き、働こうとしている高齢者の大半は厳しい生活を維持するため、また、少しでも世の中の役に立ち、有意義な人生を送ろうと、日夜、懸命に努力しています。その先生もたぶん、同じでしょう。どうぞ、それをご理解ください。
 あなたたちの正当な怒りを、「働きたくても働く場がない」ゆがんだ社会構造へ向けてください。それを正すため、どうすればよいのか。若い力で考え、行動されるよう、切に希望しています。


この「論争」は反論者が意図的に、かつ微妙に、怒りの矛先をずらしています。また、この「教頭先生」がどこまで斡旋を受けて再就職したのか、分からない点もあります。ただ、問題を高級官僚の天下りに完全にすり替えることではこの問題の本質を見失う気がします。

というのも、この「論争」をみていると、日本でも自らの置かれた状況をめぐって、世代間での「闘争」が始まったとも感じるからです。

大卒者の就職者数は相も変わらず、さして増えていません。高卒就職率はよさそうにみえますが、一部解説にあるように、それは就職できない場合に大学や短大・専門学校に進学するという構造があるからです。
【図 学校基本調査速報にある卒業者数 就職者数及び就職率等の推移】
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そして、若者の多くは、みずからの学歴に見合わないと認識してしまうような就職先にも、やむなく就職する、という状況も生まれています。(いわゆるブラック企業など)

このような状況が進めば、高齢者が増加するなかで福祉を支える労働人口が不満を持ちやすくなる構造が生まれてしまうでしょう。くわしくは今後、また書く機会があればと思いますが、移民の流入が若者の就職減少につながったドイツでは排外主義が蔓延しました。日本では、、、あまり考えたくもないですし、想像しづらいですが、若者の不満のはけ口はどこに向かうのか。それを政治や大企業だけにぶつけても答えにはならない、もちろん特定の個人にぶつけても解決にはならない。

問題は深刻です。

以前、アメリカで日系人の方の前でお話をしたときに、私の立論が学生の就職ばかりを考えてアジアとの経済統合とか経済成長重視の立場になっているのではないか、と言われました。(もちろん、それだけが私の立論の背景ではないのですが。私は安保が専門ですので。)  

アメリカの豊さの果実を得ていると分かりづらいかもしれませんが、日本の就職の現状、大学で資料をみても、報道を見ても衝撃的な毎日。「闘争」を避けるために、低成長時代の日本(成熟社会)では、知恵を絞ることが必要な時代に入っていると思います。私はその問題意識を共有したい、と思います。
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金正日訪中 [記事紹介]

戦略国際問題研究所、コリアチェア(韓国部長)でジョージタウン大学教授のヴィクター・チャ氏が、現在進行中の金正日氏の訪中について簡潔にまとめています。(ソースは末尾)

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即興で以下、要旨をまとめます。

・前回の訪中(2006年1月)は胡主席訪朝(2005年10月)後に行われ、核問題に加えて金氏が中国南部を視察し、経済発展を目の当たりにしたことで知られる。北朝鮮が中国式の改革を行うと噂されたものだが、実際にはそんな改革は始まらなかった。

・中国が今回の訪中を受け入れた背景は、定例的な訪問と説明されてはいるものの、李大統領と胡主席が4月30日に上海において会談していることを踏まえ、南北との等間隔外交を維持するために行われたのではないか。

・金正日氏にとって今回の訪中の目的はおそらく三つ。1)支援の確保(2009年の貿易高は26億8千万ドル、しかしこの数値は党や軍を通じて行われている貿易、支援は含まれていない)、2)3月26日における韓国海軍艦船の沈没に関して北朝鮮を非難する声が高まる中で中国をひきつけ、時間を確保する。中国は安保理のいかなる行動にも加わらないだろうともいわれている 3)報道されているように金正雲氏が同行しているのであれば、首脳外交を通じて北朝鮮にとって唯一の支援者に対してお披露目をする。

・(なぜ、韓国艦船沈没事件が沈静化していない時期に、金正日をうけいれたのか、との質問に)事件の全容が解明されていない段階で、中国は公式に訪問を拒否する口実がなかったためだろう。しかし、中国にとって韓国がより重要であるのは明らかであり(貿易高(中韓1860億ドル)、留学生数をあげる)、中国政府は北朝鮮に明確な政治的な恫喝を行ったり、韓国に仁義を切ったりしたと推察する。

・中国は対北朝鮮関係と対韓国関係を切り離そうとしている。北朝鮮に韓国への関与を進めることもなければ、北朝鮮への圧力を求める韓国の声に耳を傾けたりもしない。中国外交が直面しているジレンマはわかるが、これによって中国は6者協議などにおいて、地域におけるリーダーシップを発揮できないでいる。

・今回の首脳会談が何をもたらすのかまだ語ることが難しい。中国は北朝鮮の6者協議復帰を説得しようと望んでいるだろうが、韓国艦船沈没問題が未解決の状態では韓国や米国が協議復帰に関心を示さないだろう。

CSIS Critical Questions
North Korean Leader Kim Jong-il's Visit to China
Victor Cha
May 5, 2010
http://csis.org/publication/north-korean-leader-kim-jong-il%E2%80%99s-visit-china
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改訂 クレピネビッチ インタビュー、アセアンプラス8国防相会議 [記事紹介]

※クレピネビッチの記事に関して要約を作りましたので加筆します。

今日は二つ、面白い記事が出ています。

朝日:「新世界 国々の興亡6 アンドリュー・クレピネビッチ」
 アメリカ国防戦略をこれからを読むキーパーソン、クレピネビッチの登場です。
 エアシーバトルに関しては彼が理事長を務めるCSBAのWhy AirSea Battle?、また同時期のForeign Affairs 論文(邦訳もあるはず)にもその前提となる認識が入っています。
 また、このSo-netブログの人気ニュースサイトにも、くわしく解説があるのでどうぞ。
 http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-04-23-1

 要旨は以下の通り。
 ・今後20年間のトレンドとして、人口動態の変化、核兵器の拡散、中国の台頭に留意する必要
 ・中国の対艦ミサイル、サイバー攻撃、衛星攻撃、および海外基地建設に注意、特に「西太平洋」、およびグローバルコモンズにおいて中国が米国のアクセスを拒否しようと動きつつあることに警戒
 ・それに対抗するために、「エアシーバトル」で相殺する必要(→上記論文、サイト等参照)
 ・中国への外交的関与は重要だが、中国に既存の国際秩序での選択肢を与える必要はない
 ・秩序構築のための新たな軍縮条約は困難。中国は民主主義国ではないため軍事的な信頼醸成も難しい
 ・『今後10-15年の間に仮に中国との武力衝突が起きたと想定したシナリオでは、海兵隊が大きな役割を果たすとは考えにくい。海兵隊はこの種の大規模紛争で大きな変化を生む存在ではありません。エアシーバトルも、第一には海軍と空軍の任務です』
 
 まあ、船橋主筆とのやりとりをみていると、クレピネビッチ氏はいわゆる「ごりごり」のミリタリーの立場なので中国に対する協調的な姿勢の一切を拒否、アクセス拒否能力を中国が持つならおしかえしてやれ、という考え。ただ、地理的には(第一列島線より)ちょっと後ろから押し返したいようではありますが。
 詳細はこれからより明確に発表されていくでしょう。

日経:ASEANと日米など8カ国、年内にも国防相会議
 速報なのでまだ記事になっているかは確認していません。ベトナム(議長国)国防副大臣の発言。米ロをどのように東アジア+6にかませるかは、今年に入ってでてきた話題。4月のアセアン首脳会談でも議論されていましたし。話題は非伝統的安保になると記事にはありますが、気になるのは以下の記載。
 『拡大国防相会議は昨年秋、ベトナムが提唱。米ロを加えた会議を定例化することで「南シナ海の領有権問題で中国をけん制する狙いもある」(外交筋)とみられる。』
 12月にベトナム、タイを回った時にも、議長国ベトナムが今年は南シナ海をめぐった対中けん制をアセアンをつかって行う可能性を幾人もから聞いていました。タマがひとつでてきた、という印象。今後の展開に注視ですね。
 日米関係のアジェンダとして、南シナ海をどうとらえるか、対ベトナム関係をどう戦略的にみていくか。
 原発の売り込みもひとつの手段ですが、大きな目的、他の手段、そのあたりを考えることに最近関心があります。(アメリカの戦略系の専門家とも少し盛り上がる話。)またフォローします。

皆様、よい連休を。

オバマ・インドネシア・豪州歴訪 [記事紹介]

※以下の記述は日本時間で16日時点で書きましたが、18日(東海岸時間)にオバマ大統領のアジア歴訪は再度延期が発表されました。

日本では給油地グアムで何か発言があるかどうかで注目されているのかもしれませんが、来週にオバマ大統領はインドネシア、オーストラリアという「ミドルパワー」のみを、APECなどが開催されていないにもかかわらず、訪問します。

【写真 キャンベラ自宅(当時)前で撮影した桜 09年9月】
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月曜日、DCのCSISではマイク・グリーンとヴィクター・チャの両氏(ともにブッシュ政権期の国家安全保障会議上級部長経験者)によるプレス向けイベントがありました。早速、議事録は公開されています。とても面白いです。
インドネシアにおける共同宣言の内容不足を予想していたり、アメリカ=インドネシア軍事交流の目的を設定していたり。

以下、さっくとした情報源をならべておきます。

Press Brief: President's Trip to Guam, Indonesia, and Australia
Briefers included:
■Michael Green, CSIS senior adviser and former NSC senior director for Asian affairs.
■Victor Cha, CSIS senior adviser and former NSC director for Asian affairs
http://csis.org/event/press-brief-presidents-trip-guam-indonesia-and-australia

Obama's Asia trip itinerary revealed
http://thecable.foreignpolicy.com/posts/2010/03/15/obamas_asia_trip_itinerary_revealed

CSIS Critical Questions: Obama's Trip to Guam, Indonesia, and Australia, March 21–26
http://csis.org/publication/obamas-trip-guam-indonesia-and-australia-march-21%E2%80%9326

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姉妹都市交流について数日前に触れましたが、最近の動向についてもっともよくまとまっていると思われる記事がアップされていますので、参考までにここに紹介します。
「地方自治体における国際交流の現状と課題」
http://www.jcie.org/japan/j/pdf/others/kiji/2010/clair201003.pdf

中国:民主化と軍備増強の今後 [記事紹介]

北京大学国家発展研究院副主任・教授のYao Yang(性は女ヘンに兆、名は洋)の論文はForeign AffairsのHPで表紙を大きく飾っています。次号に掲載される予定のこの論文で、中国経済の持続的発展のためには、金融危機後の大型経済出動では不十分で、財産権、労働権、参政権などの経済、政治上の権利を認めなければならない、と喝破しています。
http://www.foreignaffairs.com/articles/65947/the-end-of-the-beijing-consensus
要約はこちらにあります。
http://www.eastasiaforum.org/2010/02/05/the-end-of-the-beijing-political-consensus/

なお、この論文が「北京コンセンサスの終焉」とついているのは、過去数年、権威主義体制を維持したまま国家が成長を続けることを北京コンセンサスと言ってきたからです。(名付け親は確かイギリス人ジャーナリスト)国際会議でよく言っていました。いずれにせよ、このような論文がフォーリンアフェアーズにでることには一定の意義があると思います。(個人の見解として発表されていると信じていますし、Yao先生が北京にとどまって、自由な意見を中国語でも発表し続けられることを祈っています。)

今日は、他にも面白い記事が目についた日でした。風邪をひいて家にいるのもいいものです。
まず、ジェームズタウンの「中国簡報」の人民解放軍の海軍のインド洋、ソマリアなどへの展開と、同時にある中国の慎重姿勢について。最後のほうにある、「中国の指導部は新しい能力の獲得が少なくとも短期的には政治的なコストを伴うものだと認識しているようだ」という記述。中国に対抗するフィリピン、ベトナム、台湾の動きに警戒をしていると。本文のほかに、当然日本とインドとの関係も触れられています。
http://www.jamestown.org/programs/chinabrief/single/?tx_ttnews[tt_news]=36008&tx_ttnews[backPid]=25&cHash=e205399a64

たしかに、一方で「真珠の首飾り」といわれるようにインド洋沿岸各国に「商港」を作り続けている中国は、他方でソマリアへのミッションでも意地でも寄港していないとも聞きます。若干、乗組員には同情しますが。

【図:インド洋における大国の基地建設など(フランス語)】
2010-01_002-2.jpg

最近、中国の軍事力増強については「透明性」という議論は少しトレンドではなくなってきた気もします。その先にある軍事交流や信頼醸成、なにより危機回避のメカニズム、海洋法の解釈をめぐるギャップの修復など具体的なテーマで議論をしたほうが生産的(そしてそれができていないという危機意識)に由来していると思います。

それでは、中国にそのような国際協調的な行動を取らせるには、なにをしたらいいのか。

あるアメリカの専門家は「中国を辱めればよい(shame china)」といいます。責任ある利害共有者にするためには、外交的に、ある種の国際的孤立化のような状況をつくれば、メンツを重視する中国は乗ってくる、という理論でしょうか。私も(shameという言い方はさておき)、日米、さらには欧との協調は重要でしょうし、ソフトな外交・軍事的な枠組みつくりを豪州、韓国、インド、さらにベトナムなどとすすめることには一定の意義があると思います。

しかし、自信を深める中国が本当にそれで本当に乗ってくるのか。
政策シミュレーションで中国を演じたときにも思ったのですが、成長に支えられ、また多くの取引材料をもつ中国は、ちょっとやそっとでは妥協する必要を感じないでしょう。

冷戦的な状況が生まれることは、どの国の利益にもならないし、経済的な関係を考えればそのような状況になることも現実的ではありません。しかし、単純に中国とそれ以外の二つの世界のパワーの共有が新しい国際秩序になることも、世界の利益ではありえません。

もっともいい選択肢は、中国自身が、内部の変革者の意見を聞き入れて自己変革していくこと、国際秩序において(途上国ではなく)大国としてしっかりとした責任を果たす存在になることだと思います。今後、中国は国内問題で内向きになると思いますが、それが対外政策における慎重さを損なわずに、逆に対外的な安定をもとめる、という方向で作用してほしいと思います。

他に気になる記事をふたつ。
韓国海軍
http://www.chosunonline.com/news/20100202000066
友愛ボート
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2010020400982











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