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業績棚卸し(3)現代日本外交論 [雑感]

これも過去十数年、続けてきた研究分野です。

主要業績
1.「対外政策:アジア外交の安全保障化」竹中治堅編『二つの政権交代:政策は変わったのか』勁草書房,2017年。
2.「民主党外交と政治主導の失敗」『政策・経営研究』(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)、第25号(2013年2月)、115-128頁。
3.「鳩山由紀夫政権におけるアジア外交 ―「東アジア共同体」構想の変容を手掛かりに」『問題と研究』(国立政治大学国際関係研究中心)2011年4・5・6月号、1-40頁。
4.「安全保障政策の変容と行動空間の拡大」御厨貴編『変貌する日本政治 ―混迷の時代を読み解く』勁草書房、2009年。

>> 1.4を読んでもらうと90年代から第二次安倍政権まで、一応通史的な形になっています(外交安保でもカバーしていない箇所が多々あるのですが)。国内政治に引っ張られた通史とは一線を画してはいる、と思います。民主党外交に少し関心があったので2,3を書いています(1にも多少吸収)。2は民主党外交を多角的に評価しています。3は東アジア共同体構想だけに焦点をあてています。2,3とも政官関係のなかで官僚がそれなりに当時は頑張って修正していたことがわかります。他方、1でも書いていませんが、安倍政権の長期化にともない、政官関係は民主党時代よりも変化しており、それは政策への影響も多々あります。数年後にも、このあたりを改めてまとめなおし、日本外交論を書きたいものです。

外国語業績
1. R. Sahashi and T. Satake* “Rise of China and Japan’s ‘vision’ for free and open Indo-Pacific,” Journal of Contemporary China, in print (2020).
2. “American Power in Japanese Security Strategy,” in Andrew O’Neil and Michael Heazle (eds.), China's Rise and Australia–Japan–US Relations Primacy and Leadership in East Asia, London: Edward Elger, 2018, pp.143-166. https://doi.org/10.4337/9781788110938.00016
3. “Japan-Taiwan Relations since 2008: An Evolving, Practical, Non-Strategic Partnership,” Jean-Pierre Cabestan and Jacques deLisle (eds.), Political Changes in Taiwan under Ma Ying-jeou: Partisan conflict, policy choices, external constraints and security challenges, London and New York: Routledge, 2014, pp.232-246.
4. “Security Partnerships in Japanese Asia Strategy: Creating Order, Building Capacity, and Sharing Burden,” Asie. Visions 61 (Paris: Institut français des relations internationales), February 2013, pp. 1-23.
5. 「亚太秩序的变化与日本的战略」『中国国際戦略評論』(世界知識社、北京大学国際戦略研究センター)、2012年号、33-44頁。(中国語)

>>日本外交の、とくにパートナーシップ外交について関心を持って何本か書きはじめ(4, 5)、日台関係(3)、日米同盟(2)についても書きました。ただ、今英語の世界の日本外交論で一番必要なのは日中関係だと思ってます。2020年度にはこれで単著論文を一本予定しています(1も近いが、それとは別に)。
 ほかに、 R. Sahashi and J. Gannon (eds.), Looking for Leadership: The Dilemma of Political Leadership in Japan, Tokyo and New York: Japan Center for International Exchange, 2015.という本をまとめており、コロンビア大学大学院はじめ、教科書としても使われています。

論評
1.「平和主義と安全保障の交錯」『自由と正義』(日本弁護士連合会)、65巻9号(2014年), 16-21頁。
2.「台頭する中国をどう見るか」『神奈川大学評論』第71号(2012年)、137−145頁。
3.「外を向いてこその外交だ アメリカの優越、中国の台頭と日本」『論座』(朝日新聞社)2006年4月号、187-193頁。

>>未だに、この三本は我ながらよく書けた、と思っています。そしてあまりブレていない自分を確認できます(専門家としては本当はそれが普通なのですが)。(4)にある『神奈川大学評論』(2019)と併せ、より広い読者に読んでもらえる形でいつか直せればと。


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業績棚卸し (2) 東アジア秩序論 [雑感]

博士論文を出した後、指導教官には博論後最初の研究が大切だ、と言われました。
それで取り組んだのが東アジア秩序、アーキテクチャをめぐる議論です。多国間協力だけではなく、同盟、パートナーシップにも関心があったので、辞典項目や国際プロジェクトへのお誘いも多々いただきました。

主要業績
1.『冷戦後の東アジア秩序 秩序形成をめぐる各国の構想』勁草書房、2020年。

>>>研究チーム10名の成果に乗っかっただけですが、東アジア秩序について、冷戦期、冷戦後、そしてこれからに分析を与える議論を自分も載せることができました。書籍全体としてみると、まとまりのある議論になったと信じています。。。

書き散らかしたもの
1.「東アジアの安全保障秩序構想」木宮正史編『講座日本の安全保障VI 朝鮮半島・東アジア』岩波書店、2015年。
2.「書評:Evelyn Goh, The Struggle for Order: Hegemony, Hierarchy, and Transition in Post-Cold War East Asia」『アジア研究』60巻1号(2014年)、76-80頁。
3.「アジア太平洋地域における安全保障アーキテクチャと三層分析法」神保謙・東京財団アジア安全保障プロジェクト編『アジア太平洋の安全保障アーキテクチャ ―地域安全保障の三層構造―』日本評論社、2011年。
4.“The rise of China and the transformation of Asia-Pacific security architecture,” William T. Tow and Brendan Taylor (eds.), Contending Cooperation: Bilateralism, Multilateralism, and Asia-Pacific Security, London and New York: Routledge, 2013, pp.135-156.
5.“Security Arrangements in the Asia-Pacific: a Three-Tier Approach,” William T. Tow and Rikki Kerstain (eds.), Bilateral Perspectives on Regional Security: Australia, Japan and the Asia-Pacific Region, New York: Palgrave MacMillan, 2012, pp.214-240.
6.“Conceptualizing Three-Tier Approach to Analyze Security Arrangements in Asia-Pacific,” Security and Defense Studies Center Working Paper, Australian National University, December 2009.

>> 本当に書き散らかしていますね、、、。ただ、1の岩波安全保障シリーズに誘ってもらい、東アジア秩序を広く考える機会をいただいたことは自分にとってとても重要な転機になったと感じています。3のアーキテクチャ論は、3年間、尊敬する先輩たちに鍛えてもらう場になりました。4,5,6はANUでポスドクを行った時代、ボスのBill Towと色々と考えた残滓。East Asia Forumというブログに十数本、英文コラムを書き続けたのも良い経験になりました。2は本当に良い本なので、読んでほしくて紹介しました。

>>> ほかに、北朝鮮、朝鮮半島情勢には秩序論の観点から関心を持っています。思ったよりも事態が動かないので、アメリカの北朝鮮政策分析くらいしかできることはないのですが、今後、朝鮮半島をめぐる国際政治がどこに向かい、半島の平和体制がどうなるのか、それが秩序に与える影響は何か、というのが最大の関心です。文章は以下が自分の関心を示しています。「米朝首脳会談後の北東アジア:融和ムードと非核化の行方」『東亜』2018年9月号、20-32頁。

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業績棚卸し (1)米中関係、アメリカと中国、台湾 [雑感]

過去18年の研究歴で中核を占めるのはこの分野です。学会報告、研究報告は多数あるので省略。

主要業績
『共存の模索 アメリカと「二つの中国」の冷戦史』勁草書房,2015年,340頁。
>>>大幅に修正して収録した内容は査読誌、研究機関紀要に4本に分けて出版しました。)

翻訳
1. アーロン・フリードバーグ(佐橋亮・玉置敦彦監訳)『権威主義国家による挑戦』笹川平和財団、2018年。公開中
2. アーロン・フリードバーグ(佐橋亮監訳)『支配への競争:米中対立の構図とアジアの将来』日本評論社、2013年6月。(古賀慶、山口信治、石原雄介、井形彬と共訳)

>>> フリードバーグを書籍、長文報告書の二つ、翻訳しました。中国観も、望ましいと考える戦略オプションも別に同じではないのですが、日本ではアメリカの戦略論議への理解が足りないと感じ、こういう議論を紹介しなければと思い、膨大な時間を使いました。
 博士論文でキッシンジャー、ブレジンスキーなど対中関与の議論に慣れた自分へのリハビリにもなりました。なお戦略論議では、親交あるクリス・レインの議論を日本で紹介するのにも一役買いました(『外交』23号、レインへの解題)。

時評
『Janet』(2012-13)、『東亜』(2014-15)『アメリカと中国』(東京財団、2018-)
>>>アメリカ分析ということで、米中を超えるものもありますが、3,4ヶ月に一本はまとめることで、情報の整理分析を行っています。

最近の業績
1.「米中対立と日本:関与から戦略的競争に移行するアメリカを中心に」『国際問題』688号、2020年1・2月合併号(「2020年の国際社会と日本外交への諸課題」)。
2.「アメリカの対中国政策 ―関与・支援から競争・分離へ」宮本雄二・伊集院敦・日本経済研究センター編『技術覇権 米中激突の深層』日本経済新聞出版社、2020年。
3.「米中関係と危機:政治的意思による安定とその脆弱性」東大社研・保城広至編『国境を越える危機・外交と制度による対応―アジア太平洋と中東』東京大学出版会、2020年夏刊行予定。
4.「解説」H・R・マクマスター、マイケル・ピルズベリー、キショール・マブバニ、王輝耀(舩山むつみ訳)『China and the West: 中国はリベラルな国際秩序に対する脅威か?』楽工社、2020年

>>>1,2, 4トランプ政権の対中政策強硬化についての初歩的分析です。内容は重複するところがあるのですが、1がアカデミック、2は一般向け、かつ科学交流について簡単な説明、4は最も広い読者を想定した書籍への解説(2万4千字・・・)。
 3は今後につなげる研究で、三次にわたる台湾海峡危機の先行研究を整理し、またトランプ政権の対台湾政策についても簡単な分析を与えています。

今年の予定
1.「米国の台湾政策と総統選挙」日本台湾学会全国大会共通論題
2.「米中関係における信頼と不信の作用」別の学会報告
>>>オンラインでの学会開催になるとは思いますが。

今後、1980年代以降の米中関係がなぜ真の和解には失敗したのか、それでも関係を維持できたのか、という点、米中関係が東アジア秩序、国際秩序に与えてきた、そして与えていくインパクトという点をこの分野ではざっくりと考えています。
各論では、アメリカの対中技術規制、とりわけ人の流れの規制について関心を持ち始めています。

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業績棚卸し  [雑感]

東大は原則自宅での研究となりました。それなりに資料を自宅に持ち帰ったので、当面はなんとかなりそうですが、長期戦となると電子書籍を買い込むしかなさそうです。

さて、出張や通勤時間もなくなったことで生まれた余裕を使って、これまでの研究業績を棚卸しして整理しようと思い立ちました。自分の今後の研究計画を明確にするためです。

何かの間違いでこの頁を読んでくださった同業者、学生、国際政治に関心のある市民の方には何かしら意味があるかもしれません。ただ、電子化されているものは少ないので、その点はお詫びします。。。

分野ごとにページを分けます。

来年度A1A2演習について [雑感]

来年度前期は「全学自由研究ゼミナール」で駒場に出講し、東アジア国際秩序や最近の情勢に加えて、国際政治の英語での情報の読み方なども一緒に学ぼうと思っています。Foreign AffairsとかNYTとか一緒に読みたい駒場の学生はどうぞ。

後期は法学部と法学政治学研究科の合併で以下を開きます。シラバスは公式にはそのうち大学でアップされます。他研究科からも取れるはずです。英語で読むので、話すのは自信なくても読む方は努力してください。

キッシンジャーだけの演習をしばらくやったあとは、大戦略論争だけの演習をやろうと思っています。
いや、私はスコウクロフト、僕はライスとか、そういう方も歓迎。バノン教みたいな、えっじの効いた人も(選考あるけど)とりあえずだしてみてください。

一応、私これで博士号取っているので、それなりには詳しいはず 本人にも何回も会ってるしね
けど学生が集まるかなぁ、と不安でいっぱいです

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学部・国際政治学演習/法学政治学研究科演習「米中関係と国際秩序」

国際政治学について習熟することが本演習の目的となる。手法としては、外交史、また国際秩序をめぐる理論を用いる。

2020年度の演習は、まず米中接近をはじめ、1970年代に米大統領補佐官、国務長官として活躍した国際政治学者ヘンリー・キッシンジャーの文献を講読する。キッシンジャーの下で働いたものたちは、その後もアメリカ外交の中心的な担い手になる。彼の思想、行動を分析することで、アメリカ外交に綿々と存在する、一つの思潮を辿ることができる。

詳細な授業計画は、講義初日に受講生と相談するが、キッシンジャーの著作をいくつか講読したのち、各自の研究報告によってテーマ毎に深掘りをしていく予定である。テーマとしては受講生の関心にあわせるが、必ずしもキッシンジャー氏だけに限らず米中関係のなかから演習内容に沿うものを(指導教員と相談の上で)自らで選択して良い。米中関係を19世紀以前まで辿るのも興味深く、また米国外交思想の系譜のなかに中国を置いてみるのも良いだろう。

成績評価は、文献購読にかかわる報告(20%)、および演習への参加(10%)に加え、最終レポート(70%;演習内における報告を含む)によって行う。最終レポートは日本語で執筆して構わない(史資料としては英語、中国語も積極的に利用することが望ましい)。ただし、講読文献は英語が中心となる。

事前に、キッシンジャー本人による著作を邦訳でも構わないので、一つ読んでおくこと。たとえば、『外交』、『中国』などが良い(上下巻ある)。ファーガソンやアイザックソンなどによる伝記も翻訳されているので、それらを読んでおくことも事前学習としては良いだろう。

東大の学部生・院生であれば講義前にであっても内容等について相談することは問題ない。
http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/faculty/prof/sahashi.html


研究報告とコメントのありがたみ [雑感]

1月には職場での着任研究会があり、外部専門家の討論者、所内と学内外の参加者数十名を前に、これまでの研究と今、これからやりたいことを話す機会がありました。

正直、頭の中身が全くまとまっておらず、討論者に返り討ちに遭うという結果に終わったのですが、そのときに討論者と会場から頂いたコメントの数々は十数個のポイントとして、後日メモに起こしました。(会場にいた友人の助けもあり。)

その翌週と3週間後にアメリカに往復して、テキサスA&M大学、ミシガン大学、コロンビア大学で研究報告に近い内容で学生、教員相手にお話しさせて頂いたのですが、これもまた、ざっくりとした話に多くのコメントをもらいました。

研究歴も18年を越してくると頭の中身が凝り固まっていて、考え方とか切り口、論理構成がワンパターンに陥りがち。コメントのありがたみは、この数年、つとに感じます。
そうか、そういうところが議論に欠けているのか、そういえばその切り口でも考えないと行けない、この先行研究を読み直していなかった、その発想はなかった、などなど、色々なことを持ち帰ります。

有り難いなぁと思うと同時に、コメントをもらうためにもっとよく準備しておけば良かったとも。もちろん、穴だらけだからこそ突っ込んでくれる、というのもあるのですが。
規範的な、または政策評論だと正直コメントは通り一辺倒。

アーギュメント(議論)を明確にしてつっこみを待つことが有効と感じます。図表は、もう聴衆の大好物で、だそうものならあらゆる角度から攻めてきます(とくにアメリカ人)。

この数週間に得たコメントを上手く反映させて、今書いている論文を仕上げられればと思います。

2019年の仕事を振り返ると [雑感]

今春より、教育と学務が大きな比率を占めていた私立総合大学から、国立大附置研究所に異動しました。やはり、これはキャリアの大転換で、研究に大いに専念させて頂くことができました。

世間の目に付きやすいコラム執筆(東京財団政策研究所など)、メディア出演に加えて、学会報告をはじめとした報告の機会が多く、来年に出版が多くされる予定です。今年は実のところ、仕込みの年でした。

現時点では、三月迄に編著1冊(勁草)、分担執筆3冊(日2,英1)、雑誌論文1(国際問題)が新たにでます。(ほかに雑誌論文(神奈川大学評論)を夏に出しています。)

査読はR&R(共著)が1(提出済み)、また逆にゲスト編集長1冊の作業が大詰め。来年早々にもう1本、査読にだします。

教科書・辞書も4冊ほど、そろそろ日の目を見るようです。

政策研究関係では、アメリカ研究者との共著が二つほどあり、一つはカーネギー国際平和財団から既に出ました(スウェイン博士との共著で台湾ものなので、色々と目に付いているようです)中央公論での対談や、読売新聞でのG-7の大きなコメント、いつもお世話になっている朝日新聞では朝鮮半島・北東アジア関係で2回オピニオン面にださせていただきました。

来年は、翻訳関係のお手伝いも形になってきます。大きな学会報告が二つ、それに加えてISAでの報告もあります。ブラジルでの客員教授というお仕事もする予定です。

なにより、大きな研究費を当てに行こうという意欲が湧いてきました。

ねずみ年も頑張っていきたいと思います。

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会議のはしご [雑感]

今週はなぜか毎日のように、学内外での研究関係のワークショップや国際会議をはしごしている。

さすがにここまで重なる週は珍しいが、技術管理や戦略的コミュニケーション、日韓など関心のあるものだけだったので、学ぶことが非常に多かった。見逃していた情報も入れば、面白いフレームワークを知ることもできる。

週末には、日韓、日米韓のはしごで、モデレーターと報告者をそれぞれで行った。韓国からの参加者は旧知の専門家も新しく出会った方も良識的な人たちだった。(アメリカ人は元国務省ばかりで、言っていることも「外交的」で、少なからず辟易したところはある。)

しかし、韓国の国際関係専門家は、保守的(米韓同盟を基調に物事を考える)または国際的な意味でのリベラルで、多くは欧米博士号取得者なので、話しやすいものの、今の韓国の青瓦台の雰囲気とはもちろん相容れない。

対中姿勢でも、「ポストTHAAD症候群」と私は名付けているのだが、未だに対中配慮を保守的な人の言辞からも読み取ることができる。もちろん、最近の日本政府も人のことを言えたものではないが。

GSOMIAの停止が1週間というところで、ある参加者が問題を重大視しすぎているのではないか、と発言した。チャタムハウスルールなので、発言者が特定されてはいけないので、どの国とも言えないが。それを慫慂してきたのは誰だったのか。アメリカの同盟ネットワークを構築しようとしてきたのは、それを傷つけるような行動をそぶりでもみせたらぶっ潰してきたのは、どの国のどの役所だったのか。

日韓関係が、または日米韓関係の三者すべてが、朝鮮半島問題で政治的な目標を一致させることなんて期待するべきではない、それでも日米韓関係が重要なのは抑止と対処の効率性をあげることであり、安全保障アーキテクチャを確固たるものとして北朝鮮さらにその先を見据えることだと発言したところ、米韓側が押し黙ってしまった。

国際会議はきれい事を言う場ではないので、それで良いと思ったのだが。

今更青少年交流が大事だ、とか、ワーキングレベルで、とか言っている方がどうかしている。メディア向けの講演会ではないのだから、クローズドの場ではもっと政治政策が今できること、将来に責任を押しつけないことを言うべきだろう。

マイケル・グリーン氏がNippon.Comに日英で投稿した内容は非常に良かった。賛成できないところもあるが、一つの識見だろう。そのなかで、韓国が輸出管理体制を充実させて、それがやがて日韓関係に裨益するという下りがある。その通りだと思う。まあ、これにも、日本も過去に色々と見過ごしたと責任転嫁するような声を聞いたが。(輸出大国の韓国の輸出管理体制がどれほどひどいものか、人がそもそもいないのか、まずはよく勉強して欲しい。)

対中技術管理の重要性は、今後アメリカとその同盟国、パートナーの間で上がっていく。それに対応するためにも、またはアメリカの行き過ぎを制するためにも、韓国にはまず輸出管理体制の強化をお願いしたい。それは日韓関係にも、米韓関係にも、なにより韓国の輸出産業にも大きな利益をもたらすものだろう。

韓国は、インド太平洋にも及び腰。南方を向くのだったらそこでも大局をみるべきだろう。プライドばかりではなく、秩序構築という大局を議論してほしいものだ。政治的価値にも視野が狭い。半島を越える思考をもつべきだとはかなり前から言われているが、未だ道は遠いとの自覚を持って欲しい。

専門家の仕事について [雑感]

自分が凡庸な研究者だからこそ思うのだと思うが、世間の「専門家」のアメリカ分析に非常に不満がある。

トランプ政権になり、分析がどんどんと反射神経と噂話の入手に偏っている。政権の特徴を反映して、短期的な見方ばかりを提示し、メディアにもそれが受けが良い。

オバマ政権のときも、分析手法としてそこまで斬新さはなかった。政権が流すメッセージ(文書なりリークなり演説なり)を一生懸命に読み、裏付けるためにDCや軍関係者との会合を大切にして、アメリカの方針を読み解く。つまらないといえばつまらないし、それが良いとは思っていなかったが、それでも分析はもう少し賞味期限があった。

トランプ政権の分析は正直、つまらないものばかりがでてくる。誰に会った。噂を聞いた。人事情報を早く入手した。だからどうなんだ、と思う。

分析者の役割は、どうにでも転ぶ今だからこそ、一歩引いた構造を見極めることだし、シナリオを考えることではないのか。

似たような話で、アメリカの中国政策が固まった、というのがある。

そういう言説をするDCの人間はいるが、それはそうであってほしいという思いとともに言っている。
しかし実際は、中国政策が従来のままではもう機能しないことを分かりつつも、また大目標として米国の優位を維持しなければならないことに合意しつつも、アプローチは多様であり、強硬論者に眉をひそめる人間は古い人間だけではなく、DCのいたるところにいる。アプローチが多様であれば、政策の出方は色々と変化してくる。表面的なところの下に隠れているところを見極めるのが、仕事だ。

きちんと情報収集を多角的にやっていれば、規範論と分析の違いは普通わかる。

ただ、そこが分からない日本の実務家は、アメリカの中国政策はこうだ、取引主義者のトランプ大統領だけをみては間違う、みんな一枚岩だ、とのたまう。

私に直接そのようなことを言ってくださった、ある省庁幹部には正直面食らった。

きっと出先機関と、高いお金を払ったコンサル的な人たちのレポートがあるのでしょうが、まずは自分で足を運んで、ネットワークを広げたらどうでしょうか、と。
または米中関係の構造的、歴史的な分析をもう少し読んでみたらどうでしょうか、と。

まあ、自制したが。

自分のしていることは学究なので、目の前の人間を喜ばせることにさして興味はない。クライアントではないのだから。本当に正しい分析は何なのか、何が長期的に意味のある、読んだ人間に価値ある分析なのか。

ただの雑感です。

1982年8月17日におけるレーガン覚書(台湾への武器売却に関して) [雑感]

1982年8月17日、82年コミュニケの当日にレーガンが口述筆写させたと言われてきた覚書。米台武器売却の基礎文書が、先月末、ボルトンによってついに公開。邦語ではマン『米中奔流』196頁にも言及(英語では他にも)。ただ正確ではなかった。

https://www.ait.org.tw/wp-content/uploads/sites/269/08171982-Reagan-Memo-DECLASSIFIED.pdf

以下に資料を翻訳します。引用する場合、佐橋亮による翻訳と明記してください。

1982年8月17日 シュルツ国務長官、ワインバーガー国防長官に宛てた覚書 件名:台湾への武器売却について 既知の通り、私は中国との共同コミュニケを出すことに合意した。それは台湾への武器売却の継続に関する米国の政策を示すものである。 コミュニケの署名にいたる(中国との)交渉は、以下の点の明確な理解を前提にするものだった。すなわち、台湾への武器売却を減少させるかどうかは、台湾海峡における平和と、中国が「基本的政策」と称している台湾問題の平和的解決への意思を継続するかどうかにかかっている。 端的に言えば、米国が台湾への武器売却を減少させる意思をもつかどうかは、台湾と中華人民共和国の差異を平和的に解決しようという中国の約束が継続するかどうかに、完全に条件付けられている。これら二つがリンクすることは米国の外交にとって永続していく命令として、はっきりと理解されるべきである。 加えて、台湾に提供される武器の量と質は、中華人民共和国から与えられる脅威にのみ条件付けられることは、本質的に重要なことだ。量と質において、台湾の防衛に要する能力は中華人民共和国のそれとの関わりにおいて維持されなければならない。 ロナルド・レーガン


なお、1982年8月17日の同じ日に公開された米中コミュニケは以下の通りです。
5.米国政府は、中国との関係を非常に重視しており、中国の主権と領土保全を侵害する意図も、中国の内政に干渉する意図も、「二つの中国」あるいは「一つの中国、一つの台湾」政策を推し進める意図もないことを重ねて言明する。米国政府は、1979年1月1日に発出された「台湾同胞に告げる書」及び1981年8月30日に中国から出された8項目提案に示されている台湾問題の平和的解決のため努力するとの中国側の方針を理解し、評価する。台湾問題に関し生じた新しい状況もまた米国の対台湾武器売却問題を巡る米中間の相違の解決のため有利な条件を作り出すものである。 6.双方の上記の声明を念頭に置きつつ、米国政府は台湾への武器売却を長期的政策として実施するつもりはないこと、台湾に対する武器売却は質的にも量的にも米中外交関係樹立以降の数年に供与されたもののレベルを越えないこと、及び台湾に対する武器売却を次第に減らしていき一定期間のうちに最終的解決に導くつもりであることを表明する。右を表明するに際し、米国は本問題の完全な解決に関する中国側の一貫した立場をアクノレッジする。 7.米国の台湾への武器売却は歴史に根ざす問題であるが、一定期間のうちにその最終的解決をもたらすために、両国政府は、本問題を完全解決に導くための措置をとり条件を作り出すようあらゆる努力をする




端的に言えば、82年コミュニケで約束したことと全く違うことをレーガンは部下に伝えていた、ということ。そのこと自体は知られていたのだけど、内容(レーガンの口述筆写)がついに公開されたということです。平和的解決へのコミットメントと武器売却はリンクし、売却する武器も大陸の脅威で決まると。
これを公開したことの政治的意味や米中台関係への影響も考えてしまいますが、アメリカの一つの中国政策そのものを知る上でも貴重な資料かと思いました(82年コミュニケが実質的にその日から、一つの中国政策を構成していなかった、ということで)。

米国の一つの中国政策は、72,78,82のコミュニケと台湾関係法、82年の六つの保証から構成されると言われてきました(六つの保証は人と立場による)。今回よく分かったのは、82コミュニケはやっぱり省いて良く、平和的解決を求めた78年のコミュニケ時の米国声明も含めるべき、ということでしょう。

J.マンはこの文書がレーガン政権後も参照されていったと書いています。おそらくそうなのでしょう。(公文書等による検証はまた別途。)

ボルトンは最後に爆弾を投下していなくなった、という気がします。。。(以上9/18記)

追記9/19  昨日頁が確認出来なかったのですが文書自体はリリー『チャイナハンズ』238-9頁に所収されているものと同じです。それが文書で裏付けられたということ。なおリリーの邦訳では武器売却の縮小は中国の平和的解決の意思を「前提」とすると訳しましたが「条件付けられている」の方がベターかとは思います

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